Memo - Love & Comic - いしいたけるのマンガのサイト

Love & Comic 本サイトへ戻る

<< 二世代モノ物語文章第一稿目【第一部03】 | main | 08080401 >>
二世代モノ物語文章第一稿目【第一部04】
二世代モノ本文。
第一校。
第一部04。
[04]
えりかさんの家に住むことになった日の翌日。
朝6時。自然に目が覚めた。
自室としてあてがわれている和室はしんと静まっている。
わたしは寝慣れない寝具でも、それどころか野宿でも眠れるほうなので、昨晩はお風呂を借りて荷物を整理して、すんなり眠ってしまった。

旅行先ではよくあることなのだけれど、やたらと朝早くに目が覚めてしまう。
わたしはとりあえず、顔を洗って居間でぼーっとさせてもらうことにした。
今日は日中、えりかさんに村の中を案内してもらうことになっている。

二月の朝。空気が刺してくるように寒い。
居間にいるよりも、起こしてもらえるまで自室の布団に包まっていたほうがいいかなと考え直しそうになる。
それでも、朝起きてきくるえりかさんに「あら、お早いですね」って言ってもらいたかったので、居間で待つことにした。

居間。昨晩夕食を食べた畳の部屋だ。
暖房をつけるのは遠慮し、部屋から持ってきた毛布に包まって座っていることにした。

過去のことを思い出す。

えりかさんとわたしとは同学年だ。わたしたちは保育園から一緒のところに通っていた。
えりかさんは小さな頃からおとなしい子で、引っ込み思案なところがあった。
そして彼女には、こどもたちの間で不気味がられている有名な母親がいた。えりかさんの家庭は母子家庭だった。

えりかさんには友達ができなかった。母親が、えりかさんをよそのこどもと遊ばせたがらないらしく、放課後に友達のところに呼ばれたり友達を家に呼んだりということがなかったという。自然と、学校でも孤立して行った。
あるときなどは、えりかさんが比較的親しい女友達と外で話しているのを母親が見つけ、その子をすごい剣幕で追い払った挙句えりかさんを叩いて叱ったという。その手の噂はいつもあった。「怖い母親のところの子」「関わりにならないほうがいい相手」というのがえりかさんにつきまとうイメージだった。

わたしは、学校以外でわざわざ会うようなことこそなかったけれど、彼女とは比較的親しいほうだった。学校では担任も気を使って、えりかさんと比較的親しい人間はいつも彼女と同じクラスにしてくれた。クラスのなかでもわたしは「えりかさん係」いうところがあり、えりかさんと学校コミュニティとの間に入る窓口みたいな立場をわたしが果たしていたらしい。
だけれど、それは役割に過ぎなかったわけで、周囲からはやし立てられるような親密さがあったわけではなく、不気味な存在への対応を押し付けるとか、そういうニュアンスでの受け取られ方がされていた。
懸念されるようにえりかさんがいじめの対象になったかと言うと、不思議なことにそういうことはなかった。ちょっかいを出すよりも、関わりを避ける、そういう扱いを周囲はしていた。

思春期になって、わたしは自然とえりかさんに恋をした。彼女はいつも穏やかで寂しそうだった。
えりかさんがわたしをどう見ていたのかは、正直よくわからない。彼女は自分の影をなるべく薄めるようにして生きていたし、母親からうるさく言われなければ彼女は周囲に自然に溶け込むように誰にでも親しみをみせられるようなスマートさを持っていたように思う。

結局中学時代のわたしは、「えりかさん係」で満足した。告白するとか何かを求めるとか、そういうしんどいことをするにはわたしも忙し過ぎた、と言うこともある。わたしの家は母がわたしを産んですぐ亡くなってしまっていたので父とのふたり暮らしだったのだが、そのころは父も病気をしてしまい、わたしはしょっちゅう病院に見舞いに行っていたのだ。

わたしの父が亡くなり、東京の親戚のところに引っ越してからは、えりかさんとの連絡も途絶えた。学校における「えりかさん係」というのがわたしがえりかさんと接触できる唯一の口実だったからであり、そもそももし電話番号や住所が判っても、あの母親がわたしに彼女との連絡を許してくれるはずがなさそうだった。

ただ、えりかさんとわたしとの間には、わたしが引っ越す直前に交わしたある約束があった。少なくともわたしはそれを特別な絆だと思っていた。


「あら、お早いですね。」
えりかさんが起きて来た。6時10分。身支度の時間を考えるとわたしより早く起きていたのかもしれない。
「おはようございます。なんか目が覚めちゃって。」
「寒いでしょう? 暖房遠慮なく使ってください。」
えりかさんがエアコンのスイッチを入れる。

えりかさんの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、朝食にトーストをもらった。
「今日、村を案内してもらえるんですよね。何時頃家を出るのかな。」
「昼食をお弁当にしようと思うんです。10時出発でいかがですか?」
「判りました。お弁当作ってもらえるんですね。」
「ええ。特別なものではないんですけれど。」

出発までの間、わたしは自分の部屋の荷物の整理をして過ごした。親戚の家からこっちに送るものは大半が本になるだろう。本棚が必要になるだろうから、近いうちに近所で買わなくてはいけない。あるいは板を買ってきて自分で作ることになるだろう。

10時になった。
「なかよしさん、そろそろ出発できますか?」
「できます。行きますか。お弁当の荷物わたしが持ちますよ。」
| 物語文章 | 19:33 | comments(0) | trackbacks(0) | permalink |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック機能は終了しました。
トラックバック
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES