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鏡の悪魔と魔女の娘 - ノベライズ
[1]
むかし、ある森の中にお城がありました。
お城には魔女が、ひとり娘と一緒に住んでいました。
その魔女はとても魔法のちからが強く、世界的に有名な大魔法使いでした。世界的に有名なので、魔法使いが集まるいろいろな会議に出なくてはなりませんでした。

魔女の娘は名前をニコと言いました。お肉が大好きで元気な13歳の少女でしたが、魔法の勉強は眠くなるのであんまり好きではありませんでした。

ニコのお父さん、つまり魔女のだんなさんは、ニコが赤ちゃんの頃に病気で亡くなっておりました。ニコはお父さんのことをちっとも覚えていませんでした。


[2]
「ニコ。起きなさい。今日も寝坊なの?」
朝6時に、ニコはお母さんに起こされました。

「今日くらいいいじゃない、ママ。」
ニコは起きたくありませんでした。

「なに言ってるのこの子は。バカね。いいからさっさと起きなさい!」
ニコはしぶしぶベッドから起き上がりました。

魔女のお母さんとニコとは、森からお花を摘んできました。
お花を抱えてお城に戻ってくると、ふたりはお母さんの部屋の前に来ました。

「鍵や、鍵や、鍵や、こっちにおいで。」
お母さんがそう呼ぶと、尻尾に部屋の鍵が結び付けられたねずみがお母さんのところまで駆け寄ってきました。このねずみはお母さんが魔法で作ったもので、普段はどこかに隠れていて、お母さん以外誰もその隠れ場所を知りません。そしてこのねずみは、お母さんが呼んだときにしか姿を現さないのです。

お母さんはねずみの鍵で部屋の鍵を開けました。ふたりは部屋に入りました。

お母さんの部屋は、運動場みたいにだだっ広く、教会みたいに天井が高く、珍しい魔法の品がたくさん置いてありました。
ニコは、面白そうな品物がたくさん置いてあるお母さんの部屋が大好きです。ついつい目に付いた魔法の道具に手を伸ばしてしまいます。

「ニコ。お部屋の品物に手を触れるんじゃありません! 遊んでないでこっちに来なさい!」
「なによ。ちょっとくらい、いいじゃない!」

お母さんの呼ぶほうには、おごそかな祭壇がありました。
ここは、亡くなったお父さんにお供え物をささげるための場所でした。
ニコとお母さんとは、毎朝ここに、森から摘んできたお花をそなえるのを日課としていたのです。


[3]
「いい? ニコ。お母さんは帰りが明日のお昼前くらいになっちゃうからね。家でおとなしくしているのよ。ちゃんとお勉強しなさいよ。」
「ガミガミうるさいなあママは。お勉強だったらいつもちゃんとやってるじゃない。」

お母さんは出かけていきました。有名な魔法使いであるお母さんはいろいろな会議に出なくてはならなかったのです。

「ちゃんと魔法の勉強をしてたおかげで、やっとひとつだけ魔法を覚えたんだもんね。」
ニコはお母さんの部屋の入り口の扉まで来ると、ポケットからちいさなブタのぬいぐるみを取り出しました。
「さあ、ニクスケ、お前の鼻の出番よ。」
そう言うと、ニコはブタのぬいぐるみに、扉の鍵穴のニオイをかがせました。
「鍵持ちねずみを見つけ出すのよ!」
床に置かれたニクスケは走り出しました。ニコがそれを追います。
ニクスケが走っていった先には、あの、尻尾に鍵をつけたねずみがいました。それは物置の衣装ダンスの裏に隠れていました。
ねずみには、隠れ場所から逃げる魔法は掛けられていませんでしたので、ニコはねずみを捕まえることが出来ました。
ニクスケをポケットにしまうと、ねずみの尻尾につけられた鍵を使い、扉の鍵を開けて、お母さんの部屋に入りました。

「これでママに叱られることなく好き勝手に魔法の道具をいじれるわ!」
ニコの目は好奇心できらきら輝きました。

ニコがお母さんの部屋の中をうろうろしていると、お母さんの化粧台を見つけました。そこにはきれいな手鏡が伏せて置いてあり、それがやけに気になりました。
ニコは化粧台の椅子に腰を掛け、手鏡を手に取り、鏡をのぞきこんでみました。


[4]
鏡に映ったのは、ニコではなく、キレイに手入れされたひげを生やしたやさしそうなおじさんでした。

「ニコや。すっかり大きくなったね。わたしは君のお父さんだよ。」
「え? あなたがわたしのパパなの? ママは、パパ、死んじゃったって言ってたけれど。」
「死んだわけではないんだ。ちょっといろいろわけがあってこうして鏡の中に住んでいるだけなのさ。」
「どんな訳なの? なにがあったの? ねえ、パパ生きてるんなら、もう毎朝パパにお花のお供え物しなくていい? わたし、朝早く起きなくちゃいけないのが嫌なのよ。」
「そうだねえ。ニコが嫌だって言うのなら、今度お母さんにわたしから頼んでみるよ。」
「ほんと? ありがとう!」

「ところでニコや、きちんと勉強してるかい? お母さんに負けない立派な魔法使いになるには、うんと勉強しないとね。」
「わたし、別にママみたいな大魔法使いになんてなりたくないわ。お勉強なんて嫌いだし、ママみたいになったってへんてこな会議にばかり出なくちゃいけなくなるだけじゃない。あっ。でもね。勉強してないわけじゃないんだから。ママががみがみうるさいからね。」
「ほほう。えらいねニコは。どれ、わたしがひとつテストを出してあげよう。うまく出来たらとっておきのご褒美を上げよう。」
「どんと来なさい! なんだって解いてやるんだから!」
「じゃあね、ニコ、これは読めるかな?」

お父さんは鏡の中で一枚の紙をニコに見せました。そこにはニコが勉強中の魔法文字が書かれていました。

「うーん。ちょっと難しいわね。でもこの間やった気がする。えーとえーと…
あっ! わかった! 『モシモシ アノネ オニク タベタイ』だ!」

ニコがそう答えた瞬間、鏡がピカッと光り、ボボンと煙が出て、鏡の中から人間くらいの大きさのものが飛び出てきました。
そのモノは、はじめはニコのお父さんの姿をしていましたが、すぐにカタチを変え、とがった角ととがった鼻ととがったあごととがった歯ととがった指先ととがったつま先ととがった尻尾とを持つ悪魔の姿になったのです。

「よくできました、お嬢ちゃん。出してくれて、ありがとう。おれはあの魔女につかまってた悪魔で、さっきのは俺を解放する呪文だったってわけさ! じゃあな!」
そう言うと、悪魔は部屋の入り口に向かって走り出そうとしましたが、足がもつれてすぐに転んでしまいました。

「ちっ。この部屋、なんて強い結界が張ってるんだ! ろくに動けやしない!」
悪魔はするりと物陰に隠れました。
ニコは突然の出来事にびっくりしてしまい、悪魔を見失ってしまいました。

「大変! ママにバレたら怒られる! ママが帰ってくるまでに、あいつをとっ捕まえて、鏡の中に戻さないと! でも、どうやって?」


[5]
悪魔はお母さんの部屋のどこかに隠れています。
ニコはめくらめっぽうに部屋の中を探しますが、悪魔は見つかりません。

「やばいわ。やばいわ。これはピンチだわ。ピンチ過ぎておなかが減っちゃうわ。耐えるのよニコ!」

ニコが部屋の中をうろうろ探し回っていると、ふと、小さな声が自分を呼んでいるのに気づきました。

「おほん。ええー。もしもし。もしもし。お嬢さん。おほんおほん。えへんえへん。」

それはちいさな黄金のハサミでした。

「わたしを呼ぶのはだれ? あんたなの、ハサミさん?」
「はい、そうです。一部始終を見てましたよ。あの悪魔にはまんまとしてやられましたね。」
「そうよ! あいつ、頭にくるわ! あんたを使ってあいつの首ちょん切ってやるわ!」
「いいアイデアですね! でもそうしたら、鏡の中にだれもいなくなって、お母さんに怪しまれますね。」
「あら、そうだわ。じゃあ、ちょん切るのは鏡に映らない尻尾だけで勘弁しといてやるわ。ねえあんた、あの悪魔、どこに隠れてるか知らない?」
「わたしにはちょっとわかりませんが、あいつのことは多少知っています。申し送れました、わたしはヒゲキールという名前で、もともとはあなたのお父上の持ち物でした。」
「あら、そうなの! パパの鼻毛を切ってたのね?」
「違います! わたしはお父上のおひげを常にうつくしくお手入れして差し上げるのが仕事だったのです。」
「じゃあ、鼻毛を切ってあげてたわけじゃないのね。」
ヒゲキールはそれには答えませんでした。

「あなたのお父上はとても紳士的で賢くお優しい魔法使いでした。あなたの母上と父上とはとてもお似合いのカップルだったんですよ。わたしは、あなたのお父上のおひげをお手入れして差し上げることを誇りに思っていたものです。」
「そんなにいいひとだったんだ、わたしのパパって。」
「残念ながら病気で早くにお亡くなりになりましたが、あなたを残していくことが残念だと最後までずっと気にかけておられましたよ。」
「パパが…」

「さて、あの悪魔ですが、あいつの使う魔法は、ものの見え方を変えるというものです。鏡の中であいつがお父上の姿をしてたのはそのせいですね。あいつを探すとき、見た目に惑わされたらなりません。」
「じゃあ、見つけらんないじゃない!」
「そーうーでーすーねー。実際難しかろうと思います。母上様があいつを捕まえたときは耳のいい使い魔を使って探しましたね。」
「耳のいい使い魔なんて、わたし持ってないよ!」
「でしょうねえーうーん。」
「あ、でもそうか、別に音で探さなくてもいいんだ!」

ニコはポケットからニクスケを取り出しました。
「あんたの出番よニクスケ! この手鏡のニオイをたどって、あのとんがり悪魔を探し出すのよ!」
ニクスケは手鏡のにおいをかぎ、一目散に駆けていきました。
ニコはヒゲキールをつかんで、ニクスケを追いかけていきます。

「ひいっ! 許して! 見逃して!」
ニコがニクスケを追いかけていくと、悪魔が本棚の裏で悲鳴を上げました。
けれどニクスケはそこを素通りして走っていったので、ニコはそれを無視しました。

「ひいっ! 許して! 見逃して!」
ニコがニクスケを追いかけていくと、悪魔が壷の中で悲鳴を上げました。
けれどニクスケはそこを素通りして走っていったので、ニコはそれを無視しました。

「ひいっ! 許して! 見逃して!」
ニコがニクスケを追いかけていくと、悪魔がほうきの束の中から悲鳴を上げました。
けれどニクスケはそこを素通りして走っていったので、ニコはそれを無視しました。

「つかまえた!」
「ちくしょう!何でわかったんだ!」
ニクスケの走っていた先には靴箱がありました。ニクスケはその中にある片方しかない長靴を鼻で指しました。ニコはこうして悪魔を捕まえました。

「でもこいつ、どうやったら鏡の中に戻せるのかな? ヒゲキール、知らない?」
「手鏡の裏側で思いっきりぶっ叩くのです。」
「了解!」
「えっ ちょっ 待っ…」

悪魔の台詞が言い終わるより先に、ニコは思い切り振りかぶって悪魔を手鏡で叩きました。
こうして悪魔は手鏡の中に再び封印されたのです。


[6]
「悪魔さん、ママは何であんたを捕まえておいてるの?」
「答える義務はないね。」
「そういえばあんたの尻尾ちょん切るの忘れてたわね。もう一回出してあげようか?」
「わたくしがここに閉じ込められているのは、あなたのお母様からある役目をおおせつかってるからでございます。」
「なにそれ? どんな?」
「わたくしは、お母様がこの手鏡を覗き込むたびに、あなたのお父様の姿になって、お父様の口調を真似て、あの方の『愛してるよ』と語り掛けなくてはならないのです。ここからいつか出してもらうための交換条件がそれなのです。」
「そうなんだ…」

「ママ、パパがいなくて、寂しいんだね…」


[7]
次の日、お昼前、お母さんが帰ってくると、ニコは、あらかじめ森でお花を摘んでおいて、お母さんを待っていました。

「お帰りなさい、ママ。今日の分、パパにお供えしようよ。」
「あら、ニコ。」

「ただいま。珍しいわね。ありがとう。」

それからは、ニコは、毎朝、自分から起きて、お父さんにお供えするお花を集めに行くようになりました。
もちろん、お母さんと一緒にね。
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